2007年10月4日木曜日

エスカレーター

裁判所からの帰り道、地下鉄のエスカレーターに乗っているときに、タスクンさんが傷だらけの左手を見せながら、話してくれました。「これ、先月の入管出頭日の帰りにやっちゃって・・・。」

前回出頭日、通常通り1階の窓口で手続きのために順番を待っていると、突然3階の窓口までくるように呼ばれ、次回出頭日は予定より1ヶ月早い10月16日となったこと、次回はこれまでとちがって重要な話があるので、パスポートを必ず準備してくるように、等々のことを告げられたそうです。タスクンさんが、「何かにパスポートが必要なら、今日も持ってきていますが?」と言うと、「今日ではなく、次回必要なのだ」とだけ告げられ、理由も訊けずにそこでの話は終わってしまいました。3階に呼ばれ次回の”説明”を聞かされていたため、1階の窓口に急いで戻りましたが、受付終了時間ぎりぎりになってしまい、ものすごく焦ったそうです。決められた出頭日決められた時間内に手続きに来ないと、その時点で問答無用で収監されてしまうからです。そのように、いろいろな意味で身の縮むような思いをさせられた入管からの帰り道、タスクンさんの頭の中は「次回、一体何があるというのだろう?もしかして・・・」と不安でいっぱいに膨れ上がり、ぼーっとして、上り下りが逆のほうのエスカレーターに突っ込んでいってしまったのです。はっと気付いたときには、人がタスクンさんに向かってどんどん逆流してきて、タスクンさんは絡まって転倒。左手をあちこち怪我してしまいました。

聞いていて、私は本当につらくなりました。タスクンさんはいつも、こういう話を実にさらりと話し、すぐにまた冗談を言ったりして決して空気を重たくしないのです。「タスクンさんでも、そういう時があるんですね。」と言うと、「ありますよ、いつも一生懸命明るく振舞っているけど・・・本当は不安でいっぱいなんです。」とタスクンさん。入管での収容所生活を含む、日本での生活の中で受けてきた様々な精神的肉体的重圧のせいで、腰や脚など、体のあちこちに不調も抱えています。"非正規滞在者”タスクンさん、ベルトランさん、そしてジランちゃん。私には、彼らはとてもチャーミングで愛すべき隣人・友人にしか見えません。私たちと全く同じ、親子・家族への愛情を持った(むしろ、人間関係にドライな現代の日本人よりも、ずっと人懐っこくてあったかい)人たちだと感じます。早く、こんな不安と重圧から解放されて、彼らが心から笑える日が来ることを願ってやみません。私たちが、この国を、虐げられた人・助けを求めている人を大切にできる、そういう国にしていけますように・・・。

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